江戸には天狗に連れ去られた少年がいて、学者が彼の言葉をすべて書き留めた

· 謎思社会長

江戸後期、だいたい1820年ごろ、寅吉という十歳そこそこの少年が、江戸のある寺の門口で、自分は天狗に連れ去られたことがあると人々に話しました。

彼の話では、七歳のとき、上野の池のほとりで遊んでいると、薬を売る老人がしゃがみ込んでいて、前に小さな壺がありました。老人が彼を呼び寄せて、壺の中に入れと言いました。彼が入ると、一瞬で壺が飛び立ち、ずっと遠くの山まで飛んでいきました。その山は常陸国にある岩間山と言います。山の中には小さなお寺があり、老人は天狗の頭領で、杉山僧正という名でした。彼は読み書きや符の書き方を教え、病気の治し方や人から悪霊を祓う方法も教えました。時には、一日でとても遠くの場所へ行き、ずっと飛び続け、雲を通り抜けることもありました。

当時の国学者・平田篤胤がこの噂を聞き、寅吉を自宅に二年間住まわせ、毎日尋ねて、その内容を一冊の本にまとめました。その書名は『仙境異聞』です。本の中には、寅吉が語った山の様子、天狗が何を着て、何を食べ、どんな文字を使っているか、また各地でどんな神々が祀られているかなどが、とても詳細に書かれています。平田は非常に真剣で、この子供の口から、目に見えない世界の様子を知ろうとしたのです。

周囲の人々はそれぞれ意見が分かれていました。子供が作り上げた話だと思う者もいれば、誰かに誘拐されて、たくさんの話を吹き込まれたのだと考える者もいました。寅吉はその後平田家を去りましたが、その後どうなったかは諸説あります。

「神隠し」という言葉は、日本では神霊に連れ去られることを意味します。昔、子供が突然姿を消し、数日後に戻ってきて、口に奇妙なことを言う場合、大人たちはそう説明しました。寅吉が語ったのは、そんな話の中でも最も完全なものでした。

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